契約整備

IPO準備では、既存の契約関係を上場企業にふさわしい水準に引き上げる必要があります。関連当事者取引の整理、重要契約のレビューと改定、契約管理体制の構築について解説します。

関連当事者取引の整理

関連当事者取引とは

関連当事者取引とは、会社とその役員、主要株主、子会社等の関連当事者との間で行われる取引を指します。上場審査では、関連当事者取引の有無、内容、合理性が特に厳しく審査されます。これは、関連当事者取引が会社の利益を損なう可能性や、利益相反の問題を内包しているためです。

整理すべき関連当事者取引の類型

以下のような取引は、IPO準備の過程で原則として解消または条件の適正化が求められます。

  • 役員等との不動産賃貸借取引:代表取締役やその親族が所有する不動産を会社が賃借しているケースは多く見られます。解消が困難な場合は、不動産鑑定士による適正賃料の算定が必要です。
  • 役員等への貸付金・借入金:原則として上場申請期までに解消が求められます。特に無担保・無利息の貸付は厳しく問題視されます。
  • 役員等が経営する会社との取引:取引の必要性、取引条件の妥当性(市場価格との比較)を十分に説明できる体制を整える必要があります。
  • 主要株主との取引:ベンチャーキャピタルや事業会社等の主要株主との取引について、独立当事者間取引(アームズ・レングス取引)であることを証明する必要があります。

関連当事者取引の解消スケジュール

関連当事者取引の解消には時間がかかるケースが多いため、IPO準備の初期段階で全ての関連当事者取引を洗い出し、解消計画を策定することが重要です。特に不動産の賃貸借など、代替手段の確保が必要な取引は早期の着手が不可欠です。

関連当事者取引の管理体制

上場後も継続する関連当事者取引については、適切な管理体制を構築する必要があります。具体的には以下の仕組みを整備します。

  • 関連当事者取引の事前承認制度(取締役会決議による承認)
  • 取引条件の妥当性を定期的に検証する仕組み
  • 利益相反のある取締役の議決権制限
  • 監査役・監査等委員による監視
  • 関連当事者取引の網羅的な把握と開示体制

重要契約のレビュー

レビュー対象となる主要契約

上場審査およびI の部(有価証券届出書)での開示の観点から、以下の契約類型について網羅的なレビューが必要です。

  • 取引基本契約:主要な仕入先・販売先との取引条件、解除条項、損害賠償条項の確認
  • ライセンス契約:事業の基盤となる技術・ブランドのライセンス契約の存続期間、更新条件、解除事由の確認
  • 金銭消費貸借契約:借入金の条件、財務制限条項(コベナンツ)、期限の利益喪失事由の確認。特にIPO時のチェンジ・オブ・コントロール条項に注意
  • 不動産賃貸借契約:事業所、工場、倉庫等の賃貸借条件、契約期間、転貸の可否の確認
  • 業務委託契約:重要な業務の外部委託について、責任分界、情報管理、再委託の制限等の確認
  • 株主間契約・合弁契約:上場に際して効力が変動する条項(IPOに関する義務、株式の処分制限等)の確認

チェンジ・オブ・コントロール条項

既存の契約にチェンジ・オブ・コントロール(COC)条項が含まれている場合、IPOが契約の解除事由に該当する可能性があります。重要な契約については、COC条項の有無を早期に確認し、必要に応じて取引先と条項の修正交渉を行うことが重要です。

契約書のリーガルレビューのポイント

上場企業として適切な契約書であるかという観点から、以下の点を重点的にレビューします。

  • 一方的に不利な条項がないか:過度な損害賠償義務、不合理な解除条項、競業避止義務の範囲が適切か
  • 知的財産権の帰属が明確か:共同開発契約や業務委託契約における成果物の権利帰属
  • 秘密保持条項は適切か:開示情報が拡大している場合、機密情報の管理体制を見直す必要性
  • 反社会的勢力排除条項の有無:全ての契約に暴力団排除条項が含まれているか
  • 個人情報保護に関する条項:委託先との間で個人情報の取扱いに関する条項が適切に定められているか

契約管理体制の構築

契約管理台帳の整備

上場企業に求められる契約管理体制として、全社的な契約管理台帳を整備します。台帳には以下の情報を含めます。

  • 契約の種類・概要
  • 契約相手方の名称・属性
  • 契約期間・更新条件
  • 取引金額の規模
  • 関連当事者取引該当性
  • 特記事項(COC条項、財務制限条項等の有無)

契約締結プロセスの標準化

新規契約の締結にあたっては、以下のプロセスを標準化し、社内規程として整備します。

  • 契約書のひな形(テンプレート)の整備と利用ルール
  • 法務部門(または顧問弁護士)による事前審査の義務化
  • 決裁権限の明確化(金額・契約類型に応じた決裁区分)
  • 契約書原本の保管ルール(保管場所、保管期間)
  • 契約更新・解除時の手続フロー

契約管理システムの導入

契約数が多い企業では、契約管理システム(CLM:Contract Lifecycle Management)の導入を検討することをお勧めします。契約の期限管理や全文検索機能により、管理の効率化とリスクの低減を実現できます。

印紙税・電子契約への対応

上場準備の過程で、契約書の印紙税の適正な処理を確認することも重要です。過去の印紙税の未納付が発覚した場合、追徴課税のリスクがあります。

また、近年は電子契約サービスの普及により、契約書の電子化が進んでいます。電子契約を導入する場合は、電子署名法の要件を満たすサービスを選定し、契約の法的有効性を確保する必要があります。電子契約は印紙税が不要となるため、コスト削減のメリットもあります。

上場申請書類における契約情報の開示

有価証券届出書のI の部では、経営上の重要な契約について開示が求められます。開示対象となる契約の選定基準を明確にし、開示内容の正確性を確保するため、法務部門と経理部門、主幹事証券会社との連携体制を構築しておくことが重要です。